握力が弱いとうつ病になる
ご覧になっていただきありありがとうございます。
臨床の経験はないのですが20年以上にわたって製薬会社で精神疾患の新薬の研究開発を行っていた医学博士の けんぞう です。
今日も科学的根拠に基づいた精神疾患関連の情報をお伝えいたします。
はじめに
握力を測ったことがありますか?
小学校や中学校の身体検査で測ったことがあると思います。
その握力がうつ病と関係があるというのです。
うつ病と握力、何の関係もなさそうですが大いに関係があるのです。
握力が弱いヒトはうつ病になりやすいのです。
そして、筋力の低下は死亡率も高いのです。
握力の弱いヒトはうつ病になりやすい
うつ病と握力について福島県立医科大学の研究グループは興味深い論文を発表ています。
Association between hand-grip strength and depressive symptoms: Locomotive Syndrome and Health Outcomes in Aizu Cohort Study (LOHAS).
Age Ageing. 2015 Jul
研究グループは、筋力とうつ病については報告があるもののの、握力とうつ病発症の関係については報告がないとして、握力がうつ症状の発症に関連するかを検証したのです。
- 対象 : 4,314人(40~79歳)
- 方法 : 握力を測定し、その後1年間にわたりうつ病症状を追跡
その結果、
握力が弱い人は1年後のうつ病症状へ経時的進行と関連あり(オッズ比1.13、95%信頼区間1.01-1.27、p=0.036)
ということが分かったのです。
また、
握力測定の時点においても握力とうつ症状は関連あり
ということもわかり、握力の弱い人は一時点においても、長期的に見てもうつ病症状の発現と関連しているというのです。
筋肉はうつ病の原因物質を除去する
福島県立医科大学の報告では、なぜ握力が弱い人がうつ病になりやすいのかまで言及していませんが、
スウェーデンのカロリンスカ研究所の研究グループは、
鍛えられた筋肉にはうつ病などの精神疾患の原因物質を「解毒」する機能がある
との論文を発表しています。
Skeletal Muscle PGC-1α1 Modulates Kynurenine Metabolism and Mediates Resilience to Stress-Induced Depression.
Volume 159, Issue 1, p33–45, 25 September 2014
うつ病を気にしている貴方はトリプトファンという言葉を聞いたことがあると思います。
トリプトファンは、私たちの体は作ることができませんので、必須アミノ酸といわれ、肉や魚、豆製品に豊富にふくまれる食品からとる必要があります。
トリプトファンは、体の中で分解されてセロトニンという脳内物質に変わるり、さらに睡眠に関与するセロトニンが作られます。
トリプトファン ⇒ セロトニン ⇒ メラトニン
セロトニンはうつ病や不安障害などの様々な精神疾患と関連していると言われる脳内物質でのですが、トリプトファンが体内で代謝される過程で、「キヌレニン」という物質も作られるのですが、
キヌレニンはうつ病や統合失調症などの患者で非常に増加していることから様々な精神疾患に関与しているのではないかと考えられているのです。
キヌレニンの生理作用についてははっきりとは解明されていないのですが、キヌレニンをコントロールすることでメンタルヘルスを向上できるとの研究も行われています。
さて、カロリンスカ研究所の研究報告ですが、
トレーニングによって鍛えられた筋肉はキヌレニンを分解する
というのです。
少々専門的になりますが、運動にともなう筋肉への刺激で筋肉中に「PGC-1a1」とい蛋白質が作られ、この蛋白質から「キヌレニンアミノトランスフェラーゼ(KAT)」というキヌレニンを分解する酵素が作られるというのです。
マウスにキヌレニンを投与するとうつ病症状を示すのですが、遺伝子操作でキヌレニンを分解するPGC-1a1を作るようにしたマウスではうつ病症状が見れれなかったそうです。
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筋力が弱いと死亡率が増加する
筋力が弱いと、
- うつ病になりやすい
だけでなく、
- 死亡率も上がる
のです。
北里大学などの研究グループは、冠動脈疾患の患者の大腿四頭筋の筋力と死亡率について報告しています。
研究では、
- 冠動脈疾患での入院患者 : 1,314人(64.7±10.6歳、1,051人が男性)
について、
- 太ももの大腿四頭筋の筋力
- 死亡率
の関連について解析を行ったのです。
そおの結果は、
大腿四頭筋の筋力が強い人は死亡率が低い
ということが明らかになったのです。
詳しい成績はやや難しいのですが、
- 対象患者6,537人について
- 平均5.0±3.5年の追跡したところ
- 死亡者は118人で
- その中で心疾患で死亡した患者は63人
だったのですが、
- 全死因死亡と心血管疾患による死亡は大腿四頭筋の筋力と関連があり
- 大腿四頭筋の筋力が強い人では死亡率が低い
という結果が得られたのです。
同じような成績は、
カナダのMcMaster大学などの研究グループが行った大規模な健康調査データ分析でも、握力と全死因死亡率との間に有意な関連が示され、握力が5kg低下するごとに因死亡率が16%増加し、心血管疾患での死亡率、心筋梗塞、脳卒中の発症率増加との関連も認められたと報告しています。
気が滅入ってくるとなかなか運動をしようと思わないのですが、まずは散歩から始めて見ましょう。
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