抗うつ薬の服用で体重が増加することは希ではありません。
抗うつ薬には、食欲亢進とエネルギー利用抑制の副作用があるからです。
しかし、知らず知らずの間に食べ過ぎてしまっていることも大きな原因なのです。
うつ病では食生活が乱れる
先日、うつ病は生活習慣病だという説もあるとお話ししました。
さらに、うつ病になるとますます生活習慣が乱れ、
- 昼夜逆転の生活
- 不規則な食事
- 引きこもり
というのが、うつ病が進んでしまった時の典型的な生活パターンです。
そして、
- 昼夜逆転の生活による睡眠不足
- 不規則な食事による偏った栄養摂取
- 引きこもりによる運動不足
がますますうつ病に拍車をかけ治りにくくしてしまっているのです。
うつ病を治すには食生活の見直しから
そこで、国立精神・神経医療研究センターの今泉博文氏の、「うつ病を治すには食生活の見直しから」ということをご紹介したのですが、
しかし、、、
この記事を読まれた主婦(仮にAさん)から、下記のようなコメントをいただきました。
うつ病で体重増加が問題なのは、抗うつ剤の副作用が殆どです。そして、このことを指導してくれるドクターはゼロに近い。
よく、食欲増加によるもの、運動不足によるものと言われますが、服薬だけで太るケースがあるのも事実です。
服薬によって増えた体重を減量するのは普通のダイエットより難しいです。
さらに、私は主婦ですが、家族が多忙なこともあり、殆ど孤食にならざるを得ません。さらに家事が困難になるので、栄養バランスがどうのとか、とても細かく考えて食事をするのはムリ。
ここに書いてあることは絵にかいた餅と言わざるを得ません。
という内容です。
Aさんがおっしゃられていることを要約すると、
- 体重増加は抗うつ薬の副作用
- 抗うつ薬だけで太る
- 栄養バランスを考えるのは困難
- 指導してくれる医師は少ない
ということです。
Aさんの言われるように、確かに、うつ病における食生活を指導してくれる精神科医は少ないので、そこで今泉氏の本をご紹介したつもりだったのですが、私の説明も不充分だったと反省しています。
そこで今回は、「抗うつ薬による肥満」についてもう一度考えてみたいと思います。
抗うつ薬で太るのは食べ過ぎも関与
うつ病の治療で抗うつ剤を飲むと,薬の副作用で太ることは事実としてあります。
抗うつ薬を飲んで体重が20〜30kgも増えたということはそんなに珍しいことではありません。
抗うつ薬の多くは、うつ病で減少する脳内のセロトニンの量を増やす働きのある薬剤が使われます。
そのため、セロトニンの作用する受容体といわれる部分を遮断する薬剤が使われるのですが、セロトニンの受容体には5-HT1~5-HT7があり、さらにそれぞれに5-HT1A、5-HT1Bなどといったサブタイプが存在しているため、抗うつ薬では作用する受容体のタイプによって様々に分けられるのです(抗うつ薬の分類についてはまた別の機会にご説明します)。
抗うつ薬の中でも、
- ジプレキサ(ドパミンD2受容体とセロトニン2A受容体作動薬)
- リフレックス(5-HT2A、5-HT2C、5-HT3遮断薬)
- パキシル(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
などの服用によって体重の増加が激しいといわれています。
セロトニンの受容体には5-HT1~5-HT7が存在しており、その中でさらに5-HT1A、5-HT1Bなどとサブタイプが存在しています。その中で抗うつ薬に関係するものをあげました。
抗ヒスタミン作用の抗うつ薬の副作用には、
薬剤名 | ヒスタミン(H1)受容体遮断 (抗ヒスタミン作用) |
---|---|
主作用 | 鎮痒、鎮静作用 |
副作用 | 食欲増進作用 |
作用機序 | ・視床下部にある満腹中枢への刺激がなくなる事による食欲増進 ・グレリン分泌促進による食欲亢進、体脂肪利用抑制 |
また、リフレックス、レメロンなどのセロトニン(5HT2c)受容体遮断薬では、
薬剤名 | セロトニン(5HT2c)受容体遮断作用 |
---|---|
主作用 | 抗うつ作用 |
副作用 | 食欲増進作用 |
作用機序 | ・5HT2c受容体遮断により満腹中枢への刺激がなくなり食欲が亢進する ・グレリン分泌促進による食欲亢進、体脂肪利用抑制 |
などの副作用があることが分かっています。
要するに、抗うつ薬の体重増加に関する副作用の作用としては、
- 食欲亢進
- グレリンによる体脂肪利用抑制
があるということですが、
グレリンというのは、成長ホルモン分泌促進作用や摂食に関与する複数のニューロン調節に関係しているホルモンで、
- 摂食量を増加
- 体脂肪のエネルギー利用を抑制
という作用が有り、ストレスを受ける事でもグレリンの分泌が促進され、過剰なストレス時の食欲増進にはグレリンが関与しているといわれています。
「体脂肪のエネルギー利用を抑制」というのは、食事によって摂取されたエネルギーは身体の細胞のエネルギー源として使われ、余分なエネルギーは体脂肪として貯蔵されるのですが、グレリンは身体のエネルギー利用を抑えて体脂肪として貯蔵してしまうのです。
Aさんが、「食べる量は同じでも太る」といわれたのは、このことです。
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食べなければ太らない
抗うつ薬により太る原因は、
- 食欲亢進
- エネルギー蓄積亢進
という原因に夜のですが、重要なことは、「食べなければ太らない」ということです。
グレリンによって、太りやすい体質になっていることは間違いないのですが、食べる量が全く同じであれば、抗うつ薬によって20~30kgも増えることはないのです。
抗うつ薬の副作用による食欲亢進によって知らず知らずのうちに食べ過ぎているということも見逃せない事実なのです。
Aさんの言われるように、「食事指導をしてくれる精神科医はゼロに等しい」のかも知れません。
ですから、今泉氏の「夜食を避け、3食バランスよく食べるように心がけよう」という食事療法をお薦めした次第なのです。
しかし、うつ病による体重増加を気にして拒食症に陥る人もいますから、余り体重の増加を気にするよりは、うつ病の回復に専念し、抗うつ薬の服用を止めれば体重も元に戻るのですから、余りに体重増加を気にすることは好ましくありません。
食事内容を、
- ファストフードを避ける
- スナック菓子類を避ける
食事においても、
- ご飯や麺類などの炭水化物を減らす
- 食物繊維の多い野菜をたくさん摂る
ということも効果があることです。
糖尿病の患者はうつ病になりやすい、うつ病の患者は糖尿病になりやすいということも多くの研究で明らかななっています。
また、糖尿病にうつ病と併発すると糖尿病の治療薬が効きにくいということも分かっています。
うつ病だけでも大変なのに、糖尿病の心配まで、、と思われるでしょうが、糖尿病の食事療法はそれほど難しいことではありません。
- 朝食のパンを半分にする
- 夕食のご飯を半分にする
ということだけでも効果があるのです。
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