うつ病と糖尿病は、精神疾患と代謝疾患で疾患の上では全く関係がありません。
しかし、
- 糖尿病患者はうつ病になりやすい
- うつ病患者は糖尿病になりやすい
ということは多くの医学的な疫学調査で明らかになっています。
うつ病だけど、やや血糖値が高い貴方も糖尿病に充分に気をつける必要があるのです。
糖尿病患者はうつ病になりやすい
最近の研究では、糖尿病(2型糖尿病)とうつ病は合併し易いという研究報告がたくさん見られます。
さらに、このサイトでもご紹介したように、抗うつ薬が2型糖尿病の発症に関与しているという報告もあります。
さらには、糖尿病がうつ病を発症させるリスクファクターだとする論文もあります。
うつ病と糖尿病の併発について、
うつ病が先か、2型糖尿病が先かという点に関しては明らかでないにしても、うつ病と糖尿病には深い関係があることは間違いありません。
厚生労働省の生活習慣病予防のための健康情報サイトでも、
糖尿病患者はうつ病になりやすく、またうつ病患者も糖尿病になりやすいといわれています。うつ病になると、血糖値のコントロールがむずかしくなり、糖尿病の合併症が多くなりますので、うつ病を早期に発見し適切な治療を受けることが重要です。
と呼びかけています。
糖尿病の約30%にうつ症状があるといわれ、
糖尿病とこころの問題が重要視されるようになっています。
糖尿病患者の、
- 13%は不安障害
- 11%はうつ病
- 5.7%は抗うつ薬を服用している
との報告もあるのです。
糖尿病とうつ病との関係について、神経系・内分泌系および免疫系の相互関係の研究がすすめられていますが、行動上の要因も大きいといわれています。
糖尿病では、食事制限などの自己管理を求められ、長引く治療がストレスになることなどから、うつ病を併発するのではないかと考えられています。
また、うつ病があると運動不足になり自己管理もむずかしくなり、糖尿病になりやすくなるともいわれています。
ということで、
- 糖尿病 → うつ病
- うつ病 → 糖尿病
と、どちらのパターンも多いのです。
厚生労働省の「メタボリック症候群が気になる方のための健康情報サイト」や「国立精神・神経医療研究センター 」によると、
- 糖尿病患者 : 31.0% → うつ症状がある
- 糖尿病患者 : 11.4% → うつ病と診断
- 糖尿病患者 : 5.7% → 抗うつ薬を服用
- 糖尿病患者 : 13% → 不安障害
と述べています。
日本人のうつ病の生涯有病率(これまでにうつ病になったことがある者の割合)は3~7%ですが、
糖尿病患者のうつ病の有病率は11%と、糖尿病では非常にうつ病になりやすいのです。
うつ病と糖尿病を併発するとどうなるのか
糖尿病は血糖値が高いだけで、特別な症状はありません。
しかし、怖いのは糖尿病合併症です。
糖尿病で血糖値が高い状態が続くことによって全身の血管壁が傷害されます。
細い血管が傷害されることによって、
- 糖尿病性神経障害
- 糖尿病性網膜症
- 糖尿病性腎症
の合併症が起こり、これが糖尿病の三大合併症といわれています。
さらに、大血管が傷害されると心筋梗塞や脳卒中が引き起こされることになります。
しかし、糖尿病はその他にも様々な合併症を引き起こすことが知られています。
さらに、
国立精神研究センターでは、糖尿病でうつ病を併発したときにみられる頻度い合併症は、
- 性機能障害
- 糖尿病神経障害
- 糖尿病腎症
- 大血管障害
- 糖尿病網膜症
の順であると述べています。
すなわち、
- 糖尿病 + うつ病 → 性機能障害
- 糖尿病 + うつ病 → 神経障害
- 糖尿病 + うつ病 → 腎症
- 糖尿病 + うつ病 → 大血管障害
- 糖尿病 + うつ病 → 網膜症
ということです。
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糖尿病とうつ病との関係
糖尿病とうつ病の関係については、神経系、内分泌系、さらには免疫系などの多方面から研究がすすめられています。
糖尿病でうつ病になるわけ
糖尿病の治療では、厳格な食事制限や運動励行などによって血糖値のコントロールが必要なことから過度のストレスがかかり、
その結果としてうつ病発症するともいわれてきましたが、東京理科大学と群馬大学の研究グループは、
インスリン分泌と脳神経に関与する蛋白質に関連性があるからではないか
との研究論文を報告しています。
やや難しくなるのですが、
- インスリン分泌にはCAPS1蛋白質が関与している
- CAPS1蛋白は脳のネットワークを担っているBDNF蛋白の分泌にも関与している
- BDNF蛋白は学習や記憶などの機能を調整し、うつ病などの精神疾患にも関与している
ということなのですが、
簡単にいえば、
糖尿病 → CAPS1蛋白質異常 → BDNF蛋白異常 → うつ病 ということで、
インスリン分泌の異常がうつ病を誘発している
のではないかということなのです。
研究グループは、「現時点では未だ不明なことも多いが、近い将来、インスリン分泌を正常化してうつ病を予防する糖尿病治療薬の開発も可能」だとしていますから、糖尿病患者には吉報です。
うつ病で糖尿病になるわけ
さて問題の、「うつ病 → 糖尿病」についてですが、
うつ病の患者は自己管理が不充分で日常生活や食生活が睡眠不足や食生活の乱れなどにより糖尿病を併発しやすくなるといわれてきました。
さらに最近の研究では、
- うつ病では空腹時血糖値が正常でも食後血糖値が高くなりやすい
- うつ病では血糖値は正常でも血中インスリン濃度が高い
- うつ病ではインスリン抵抗性が高く高血糖になりやすい
ということが明らかになっています。
すなわち、うつ病で糖尿病を併発した場合には高インスリン血症が多く、うつ病が治ると血糖値も正常に戻ることが多かったそうです。
もう少し詳しく知りたいヒトは、『糖尿病とうつ ~双方向からのパスウェイ~ 改訂版』が参考になります。
国際医療福祉大学医療福祉学部教授 上島国利 編 2014年10月発行 医薬ジャーナル社 定価 4,000円
うつ病で糖尿病にならないためには
このように、うつ病では糖尿病になりやすく、うつ病で糖尿病を併発すると合併症を起こしやすくなるのです。
しかし、、うつ病が治ると血糖値も正常に戻ることが多いといわれていますので、
「まずはうつ病の治療に専念する」ことが先決です。
うつ病の原因として様々なことが上げられていますが、最近では、
うつ病は生活習慣病
だとも言われています。
生活習慣病とは 「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」と定義され、具体的な疾患としては、高血圧・脂質異常症・糖尿病・肥満が代表的なものですが、うつ病も生活習慣病の一つだというのです。
井原裕氏は獨協医科大学の精神科医ですが、
うつ病患者の多くは現代社会の錯綜しつつ変化してとどまることを知らない環境の中で生活習慣を乱して精神症状を呈しているのであり、睡眠リズムの改善やアルコール常用の是正などの療養指導と患者個人個人の事情に合わせた簡便な精神療法を実施することによって治癒する例が多い
としているのです。
私たち人間は昼行性動物ですから「昼間活動して夜寝る」というのが基本的なパターンです。
そのため、脳や身体の生理的な反応も、
- 昼間に交感神経が優位となり
- 夜に副交感神経が優位となる
という、サーカディアンリズムという一定のリズムがあり、私達の脳や身体活動はそのリズムの中で生きているのです。
しかし、うつ病のほとんど大部分の患者では、生活リズムが乱れてしまっているのです。
その結果、サーカディアンリズムも乱れ、脳も正常に機能しなくなってしまっているのです。
最初は辛いかも知れませんが、
- 朝は7時には起きる
- 3食きちんと食べて間食は避ける
- 夜は11には布団に入る
この3つを守ってみませんか?
うつ病の治療では、薬を服用することも大切ですが、乱れた生活を見直すことも非常に重要なのです。
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