うつ病では自殺者が多いのは本当なのか?
警察庁の自殺統計原票の集計である自殺統計によれば、
我が国の自殺者数は平成10年以降は14年連続して3万人を超えていたが24年には15年ぶりに3万人を下回ったといいます。
世界保健機構(WHO)の統計では、
世界中の自殺者の30%は気分障害(うつ病)患者だった
ことを明らかにしており、
うつ病の患者における自殺率は15~20%だともいわれているのです。
妊産婦ではうつ病による自殺が多いことが明らかになり、
日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会では来年度の産婦人科診療ガイドラインに産後うつ病に関する対策を盛り込む方針を明らかにしています。
日本における自殺者数は減っているのか?
うつ病患者では自殺率が本当に高いのでしょか?
日本の自殺者数は減少しているのか?
そもそも自殺者数とはどのようにして算定されるのでしょうか?
警視庁が発表している自殺者数とは、
鑑定医が解剖などをして自殺だと認定した人数
であり近年は減少したものの約3万人もいるのです。
この自殺者数は「認定自殺者数」といわれます。
問題は、
年間の不審死が14万人もいると言うことなのです。
不審死とは死亡の状況が異常または不詳、あるいは死因が不明または特定できない死亡のことです。
この不審死の14万人の半分は自殺だと考えられ、
「推定自殺者数」は14万人の半分に相当する7万人と言われているのです。
すなわち、
我が国の本当の自殺者数は「3万人」+「7万人」=「10万人」だと考えられるのです。
日本の自殺者数は世界ワースト6
厚生労働省が今年5月にまとめた「世界各国の自殺死亡率」では、
日本はワースト6位だということが明らかになっています。
詳しく見る ⇒ 毎日新聞
これは、世界各国の人口10万人当たりの自殺者数を比較したものですが、
我が国の2014年の人口10万人当たりの自殺者数は19.5であり、アジアでは世界ワースト2位の韓国の次にで高かったとしています。
- リトアニア 30.8
- 韓国 28.5
- スリナム 24.2
- スロベニア 20.5
- ハンガリー 19.5
- 日本 19.5
- ラトビア 19.2
- ウクライナ 18.6
- ベラルート 18.4
- エストニア 18.3
なお、上にも書きましたように、我が国でも「自殺の定義」はやや曖昧で、世界各国においても自殺死亡率は統計の信頼性などが国によって異なるため単純な比較が難しいとしてWHOの「世界自殺リポート2014」でも各国の順位付けはしていません。
警察庁の自殺統計による2016年の自殺者数は、
男性 : 1万5,121人
女性 : 6,776人
と、合計では2万1,897人で、
2003年の3万4,427人をピークとして減少傾向にあることは間違いないのですが、
不審者数は減少しておらず、
真の自殺者数は減少しているとは言い難いのです。
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うつ病の患者では自殺者が多いのか?
うつ病の患者では自殺者が多いと言われます。
我が国ではもちろん、世界中で使われているアメリカの精神医学会がまとめた、
うつ病の診断マニュアルであるDSM-Ⅳにも、
自殺したいという思いにとらわれる
という項目が診断基準のひとつにあげられており、
自殺はうつ病の症状のひとつ
と考えられているのです。
詳しく見る ⇒ うつ病の診断
世界保健機構(WHO)の統計では、
世界中の自殺者の30%は気分障害(うつ病)患者だった
としています。
我が国でも、
自殺者の約60%がうつ病を患っていた
と推定されて、
その60%のうちの70~80%は精神科などにおける治療を受けていなかったと言われています。
東京都監察医務院と順天堂大学の産婦人科・竹田省教授らの調査により、
妊産婦ではうつ病による自殺が多いことが明らかになり、
日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は、来年度の産婦人科診療ガイドラインの改定に当たり、産後うつに関する具体的な対策を盛り込む方針を明らかにしています。
詳しく読む ⇒ 産後うつによる妊産婦の自殺が多い
うつ病の患者の自殺率は不正確?
自殺者の中にうつ病の患者が多いことは明らかな事実なのですが、
うつ病の患者の自殺率は15~25%
という数字には疑問もあるというのです。
例えば、
- 100人のうつ病患者を2年間追跡し、
- 2年間に10名が死亡し、内5人が自殺だった
という場合、
10人の内5人が自殺だからうつ病患者の自殺率は50%
と考えられるのですが、
95人は生きているのだから自殺率は算定できない
として、
100人全員が死亡するまで自殺による死亡率は算定できない
という考えもあるのです。
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抗うつ薬の服用で自殺が多いのか?
うつ病患者の正確な自殺率はやや不明瞭だとしても自殺率が高いのは間違いないようです。
うつ病患者で自殺者が多いのはどうしてでしょうか?
うつ病えは、
- 不安感
- 焦燥感
に苛まれることから、
絶望感を感じて自殺に至ってしまうこともあるというのですが、
うつ病の発症メカニズムも自殺と関連があるというのです。
うつ病では、ストレスなどの原因により、
セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの情報伝達物質が低下した状態となるのですが、
セロトニン減少は、
- 焦燥感
- イライラ感
を増長させて暴力性が高まり、
暴力性が内側に向かったときに自殺衝動が引き起こされるというのです。
また、抗うつ薬であるSSRIなどはセロトニン量を増やすことによってうつ症状を改善する治療薬ですが、
低下したセロトニンなどの情報伝達物質の働きが急激に活発になり過ぎると、
アクチベーション・シンドローム(賦活症候群)という、
- 衝動性
- 攻撃性
を誘発してしまうことがあるのです。
厚労省はパロキセチンなどを18歳未満のうつ病患者への投与を控えるように警告しています。
うつ病患者の自殺を防ぐには家族や周囲の人の注意が必要だと言われています。
うつ病患者が自殺を実行する前には必ず何らかのサインを発信しているといわれ、
家族や周囲の人がこの自殺のサインに気付いてあげることが大事なのです。
次回は自殺のサインについてお話ししましょう。